セイは、他のみんなに見えないようにして、内ポケットからとても古そうなメモ帳のようなものを取り出した。
 それには、とても小さな文字で
「My Diary」
と書かれていた。
(日記帳だ…でも一体誰の…?)
 するとセイはその日記帳を舐めた。
 そして日記帳は、メモ帳サイズから普通のノートのサイズに膨らんだ。
(…それ、一体どういう仕組み?)
 未来では…こんなことが当たり前のようになるのか…?
(まぁ、科学の進歩の至りだよ。それはともかく…)
(あ、My Diaryの下に名前がある!…Aria…Hitoritabi…アリア…ヒトリタビ…!!独旅さんの!?)
(そうなんだ…だからつまり、ボクの先祖は…)
(やっぱ…独旅さん…なの?)
 あれは本当だったんだ…。
(うん。そうだよ?ところで“やっぱ”って?)
(それは…笑い方が似てるから…)
(あ、そう言えばそうかも。で、本題に戻るんだけど…この日記の内容…今日と明日の分を見てくれる?)
 セイが日記帳の、しおりが挟んであったところを開いた。
 それには、こう書かれていた。

5月13日(月) はれ

今日も、放課後に隣のクラスの学級委員長・岸井さんに裏庭に呼び出された。
岸井さんは3、4人のクラスメイトたちと一緒に来て、私を侮辱した。 優等生ぶってなんかいないのに。

毎回毎回学校に来るたびにこんなふうにされるのには耐えられない。
家にいてもお兄様にどなられるだけだわ。

明日自殺するわ。
ここに遺言を書きます。
でもきっと見てくれる人なんていないんだろうな…
私の親せきには。

私の全財産はユニセフ基金にきふして下さい。
一銭たりとも、他の人達には渡さないで下さい。

詠兄様、
100てんだけがすべてじゃないの。
95てんがすべてに価することだってあるんだから。
一応お父様とお母様にあなたのことを伝えておくわ。会えたらの話だけど。

(こ…これって遺書じゃない!?)
 驚いてボクは目をぱちくりさせた。
(そうだよ。でも…次のページめくってくれる?)
 ページをめくると、次の日の日記が書かれていた。

5月14日(火) くもり

セイくんを見直してしまった。
大切なことを彼に教わってしまった。

私は自分のことしか考えていなくてその後に生まれてくる人々のことなんか思いつきやしなかった。

これがホントの自己中ってやつなのかもしれない。
典型的な自殺しようとする人だわ。

これから生まれてくるたくさんの生命たちのために私も生き延びなければ。

(じゃあ…明日、セイは独旅さんの自殺を止められるようなことを言うわけなんだ…この日記によれば子孫のことみたいだけど…?)
 セイがこくりとうなずく。
(そうだね。…ボクが頑張らなきゃボクもボクの家族の存在も消えてしまうから…かなり重要な…死活問題だよ。)

 キーンコーンカーンコーン。
 コーンキーンコーンカーン。
 ホームルームの始まりの合図のチャイムが、のんきに廊下を響いていった。