「セイって体重何キロ?」
 ボクは訊いてみた。
 一応知りたかったからだ。
「え…と、スジスズズズシジでは90キロだから…。ヨンジュウ…ゴキロ。」
「へぇ。だいたいボクと同じなんだ。」
 改めて感心してしまう。
 こんなことが同じでも、嬉しくもなんともないけど。
「ところで、何でさっき、ボク、セイがついてきちゃってること、忘れたんだろ。」
 ボクはさっきからそのことを気にしていた。
「あっ、ああ、あの『鈍感になれ。後は気にするな』っていうの?」
「えっ。あっ、うんうん、そうそう。」
 一瞬、何のことだかわからなかったけど、たぶん「デゥパルディハリ」のことなのだということがわかった。
「ボクの得意な一種の催眠術。この場合は鈍感プラス記憶喪失させるやつだよって、わかるよね。」
「なんでそんな必要があったわけ?」
「キミについていってみたかったから。」
 短い沈黙。
「他にも人はいるのに…。何でボクを?」
「なんとなく。」
 また沈黙。
 何か言わなくちゃ。
 んーとんーと。
「ああああのっ、うちのうちの家っ庭ではっ、セセイはっ。」
「水もってこようか?」
 セイがそう言ってくれた。
 けどボクは、
「いいいい。で、セイはうちの家族にとってどんなものなの?」
 やっと言えた。
「イトコ。」
「えっ!?」
 セイに訊き返した。
「キミのイトコ。」
「あっ。ボクの名前、美朋。」
 自分の名前を言うの、すっかり忘れてた。
「そう。美朋のイトコ。」
 じーん。
 胸に音楽が響き渡ったみたいだ。
 うれしい。
 ほんのりあまい、蜂蜜のような感じ。
 甘すぎるか。
「あ、言うの忘れてたけど…。この時代の言葉について教えて。」
「えっ。スジスズズズ…の時代のと同じじゃないの!?」
 ボクは驚いた。
 だって今まで未来でも言葉使いは同じだと思ってたんだから。
「少し違うとダトイ。」
 あれ?
 セイの言ってる意味がわからなくなってきた。
「あっ。そうだ。辞書持ってくる。」
 辞書辞書、あ、あった。
「これ、読んでみて。」
 通じるわけない、と思いつつ、セイに辞書を渡しながら言った。
 読んでくれるかな?
「姉ちゃん、早く飯作れ!」
と朋雷の声。
「あっ。はいはい。じゃ、御飯作ってくる。後で来て。」
「うん。」
とセイ。
 腕の時計を見ると、もう7時5分。

 御飯のこと、すっかり忘れてた。
 どだだだだだっ。
「朋雷、お待たせ。」
 朋雷はテレビに熱中している。
 そうだ、今日は日曜日だったっ。

 朋雷――上杉朋雷は、ボクより5歳も年下の、小学5年生。
 年下のくせに、やたらと生意気。
 さっきみたいに、ボクのことを、たまに『アホウ姉ちゃん』という。
 くそっ、今度言ったら二度と言えないようにしてやるっ。

 冷蔵庫の中をのぞいてみる。
 にんじん、玉ねぎ、じゃがいも。
 これは、野菜室に入っていたもの。
 これらで連想される物といえば。
 カレーライスか肉じゃがくらいだ。
 冷凍室には。
 ない。
 肉がない。
 しょうがない。
 肉なしのカレーライスにしておこう。
 カレー粉もあることだし。

「御飯できたよー。」
 ボクは大声で言った。
 すると、
「はーい。」
という返事と共に、朋雷が来た。
 辞書を読み終えたらしい、セイも来た。
 さすが超能力者、とボクは思った。
 あんな分厚い辞書を。
 40分足らずで。
 ボクはエプロンをはずし、席についた。
「いただきます。」
と大声で言った。

「ね、セイ兄キ。うまかったか?姉ちゃんのカレー。」
 セイが食べ終えた後、朋雷が言った。
「ん。おいしかった。」
 辞書は最後まで読んだらしい。
「へぇ。にんじんって、カレーライスにするとこんなに柔らかくなるんだ。」
と、余計なことまでセイは言った。
「当たり前じゃんか。」
と朋雷がつぶやく。
「セイ、食器片付けたら、上に来てね。」
 ボクはセイにそう言った。

「何?ボクに用?」
 セイはボクに訊いてきた。
 飴玉のようなものを飲まなくても、日本語はしゃべれるようになったんだな。
 発音はちょっと違うけど。
「あのさ、お願いだから、『カレーライスにするとにんじんが柔らかくなるんだー。おもしろーい』みたいなこと、言わないでくれる?バカだと思われちゃうからさ。」
 すると、
「大丈夫。」
とまだ不慣れな発音でセイが言った。
「一応、ボクは外国から来たことになってる。…外国って言っても、ドイツってとこなんだけど。」
 また、セイが一文字一文字、ゆっくりと下手に言った(わざとじゃないんだろうけど)。
 ボクはこぶしを握って言った。
「カレーは世界共通だよっ!」
 大声で言ったから、
「姉ちゃんうるさいっ!」
と、朋雷に言われてしまった。
「そんなことはおいといて。」
 ボクはカレーの話題をそらした。
「セイって重力が重い星にいたから、空跳べるかな?と思って…。それが、ホントの呼んだ理由。」
「じゃ、試しにやってみようかな。」
 そう言うとセイは。
 ベランダから空に向かって跳んだ。
 ジャンプはジャンプなんだけど。
 そのすごいことといったら。
 ボクが女っぽくなるより。
 非常識だった。
 ボクはまだ跳んでいるセイに向かって、
「セイ、スジスズズズシジで、あー、もう、赤星でいい?赤星で高飛び何cm?」
と言った。
 するとセイが、
「え…。と……。ボクの身長くらいだったから…150cm。」
と言った。
 ボク、目がお皿になった。