「母さん、なんでここに!」
 彼女がここに来ることは彼にとって予想外の展開だった様だ。
 あわてふためく“月の陰”。
「ザーク……」
 悲しそうな表情をして、キャロたちのお母さんが“月の陰”を見つめながら言う。
「恋愛は許されます。でも、喜びと同時に悲劇をもたらします……」
「だから、だめなのよ、ザーク。……悲しむのは嫌よ。ザークのためにも……」
「クレイル……」
 お互いに見つめ合う二人。
「でも……ッ……それでも、クレイルが好きなんだ!戻ってこいよ!二人でまた一緒に仕事しよう?」
「……ザークといるのが、一番辛いの……結ばれることの許されない人と一緒にいるのは……好きなのに結ばれないのが……ッ……」
 二人の様子を見ながら、二人の母が言った。
「全能の精霊、ユピテル様、どうか二人の恋が成立するのをお許しください……」
 必死に願う彼女の瞳からは、幾筋の涙が零(こぼ)れていた。
 オレも一緒になって願ってみる。
 ……あれ?
 窓から白い兎が、葉っぱを持って和室に入り込んできた。
 そしてその兎はふよふよと浮きながら、葉っぱをキャロたちのお母さんに渡した。
「『100年後に汝の子は生まれ変わり、結ばれることとなる』……ありがとうございます……」
 二人のお母さんが嬉しそうに言う。
 ……100年ってめちゃくちゃ長いじゃねぇか……。
「私たちにとっての100年は、あなたたちにとっての1年……なのよ。」
 キャロが微笑みながら言う。
 そっか、精霊だもんな……オレらとは違うんだ。
「……私、ちゃんと戻るね。翔とお別れになってしまうけど……」
 微笑みが消えていた。
 そうだな、いつまでもオレのサックスの中に居座ってるわけにはいかないし。
「わーい、クレイルが戻ってくる♪んじゃゆきとかいうやつも返すよ。」
 嬉しそうにザークが言う。
 ……でもキャロが居なくなると寂しくなるな。
「見えなくても、きっと近くにいるよ。」
 そう言って、キャロたちはすぅ……っと、消えていった。
 さよならは言わない。
「かける~!」
 そう言って誰かがオレの首に背後から抱きついてきた。
「!?」
 ゆきが、帰ってきた。
「ずっと暗闇の中にいて怖かったよ。ときどき外の声が聞こえてきたりしたけど……寂しかったよぅ。」
 ゆきがオレから腕を離しながら言う。
「……二人も、“運命の時計”を持っているのね。」
 しみじみと、ゆき。
「あぁ、もちろんオレたちもな。」
「うん。好きだよ。……昨日からずっと、この言葉をかけるに伝えたかったの。」
 あまりにも唐突な言葉に、オレは驚いて倒れてしまった。