「……楽器も片付け終わったし、そろそろ行こう。」
 オレらは階段を駆け下り、和室へと急いだ。
 先ほど開け放っておいた和室のふすまは、閉ざされていた。
 ふすまを閉めるだけじゃオレ達の侵入を阻むことはできんだろうに・・・・・・。
 とりあえずふすまを開けよう。
「待って!そのまま入るのは危険よ。盾の魔法で身を守っておかないと。」
「あぁ、そうだな。」
 早くゆきに会いたい気持ちを抑え、キャロが呪文を唱えるのを待つ。
「我らが身を守り給え…クレイル・ドゥ・リュヌ!」
 キャロの手が光を放ち、その光がオレらを覆った。
「これで大丈夫ね。さぁ、行きましょ。」
「……あぁ。」
 襖を開く。
 すると中には、縛られたゆきが居た。
「ゆき!?大丈夫か!!」
 あわててゆきに近づくオレ。
「翔!!それはゆきちゃんじゃない!」
 えっ―――――
 オレがゆきだと思っていたものは、徐々に元の姿を見せていった。
「お前は……“月の陰”……!!」
 “月の陰”を睨み付ける。
「ゆきはどこだ!」
 叫ぶオレを無視して、“月の陰”はキャロの方に足を動かしていった。
「愛しの……クレイル。」
 頬を微かに赤らめながら言う。
「……ダメだって……言ってるのに……。それよりも、ゆきちゃんをどこにやったのよ……?」
 すると“月の陰”が、ゆきなど見えない所を指して、
「“陰の檻”の中だ。」
と言った。
「“陰の檻”っていうのは、彼が使える異次元の檻のことよ。」
 キャロが教えてくれた。
「んな所にゆきを入れておくなんて……ッ・・…」
 どおりで見つからないわけだ……。
「クレイルをオレに返せば、ゆきとかいう人をここから出してやるよ。」
 “月の陰”が言う。
 その言葉にキャロは戸惑った。
「どんなことがあっても、私とあなたとの間に恋愛は成立しないわよ……」
 彼から視線を反らしながらキャロが言った。
 何でだめなんだろう。
「……血がつながっている、双子だから。」
 なるほどね。
「翔・・…とやら。」
 いきなり呼び捨てかよ!?
「なんだよ!?ゆきを早くか……」
「夜の音楽を最近、聞いたか?」
 オレの言葉をさえぎりながら、“月の陰”が言った。
 ……え。
 ……夜の音楽?
「夜の音楽……というか、動物の鳴き声、だな。植物のさえずりは聞こえているはずだから。」
 そういえば……。
「最近、夜、近所の犬が吠えなくなった……」
 猫の鳴き声ももちろん聞かない。
 でも、それとこれがどう関係あるのやら。
「クレイルは“月の光”として夜鳴いたりする動物たちに音の力を与えているんだ。逆にオレは“月の陰”として植物に音の力を与えている。夜の中から動物の音楽を取り戻すためにもクレイルが必要なんだ。」
 なるほど。
 オレの入る隙はなさそうだ……。
 ゆきがどうなるかはクレイル……キャロの選択によって左右される。
 すると突然、月の光っている方向から一人の女性……精霊が現れた。
 どことなくキャロと“月の陰”に似ている。
「お母さん……!!」
 キャロが言った。