「よぉ、クレイル、元気か?愛しのクレイル。」
「…間違っ…てるわ…あなた…はっ…」
 え?
 くれいる?
 いとしのくれいる?
「お、お前らって…」
 驚きを隠せない。
「ん?オレら?双子の姉弟でもあるし、恋人同士でもあるんだぜ。」
「違うわ!ただの“月の陰”と“月の光”の間柄よ!!」
 激しく否定するキャロ。
 「“月の光”…?」
 しまった!という感じでキャロは急いで口を抑えたが、後の祭りだ。
「そうだ。オレらは対ついになっている。双子としてこの世に生まれた時からずっと…」
 語り始める“月の陰”。
「あ、そうそう、自己紹介がまだだったな。オレは…」
 …それよりももっと大切なことがあるだろッッ!!
「ゆきをどこにやった!?」
 怒りの余り、叫んでしまった。
 “月の光”、“月の陰”、そしてキャロとの関係なんかを気にしている余裕などない。
 ゆきはどこなんだ。
 どこにいるんだ。
 まず先にそれを一刻も早く知らなくては腹の虫が収まらない。
「無事なんだろうな?ゆきは…」
「ん、ゆきって、あのおかっぱっぽい女のことか?」
 ヘラヘラしながら“月の陰”が言う。
「…そうだッ!」
 あいつを睨みながら、言った。
「まぁまぁ、そう怒るなって。そいつならこの屋敷のどこかにいるから、自力で探せ。」
「なっ……こんのやろーッッ!!」
 あいつに殴りかかる。
「…ム…ムダだっ……てば翔ッ…しっかり……しっかりしてッッ!!」
 “月の陰”に向かって確かに殴った。
 だがオレの手は“月の陰”をすり抜け、向こう側にあった階段に勢い良く当たってしまった。
「いって――ッッ!!」
 ってことは幻だったのかコイツッ!!
「ハハッ!クレイルに言われてやっと気付くなんて相当ニブいかゆきっていう女のことで頭がイカれてるかのどっちかだな!」
と、高笑いされてしまった。
「ちっ…くしょぉ…ッ……」
 幻である“月の陰”に対して、オレは全く攻撃できない。
 そのことが悔しくて悪態を吐(つ)くオレ。
 力の差を見せ付けられて……。
「ゆきって奴は今、オレの近くにいる。」
 不意に、“月の陰”が言った。
「え……?」
「だから、オレの気配をたどっていけば、見つかるさ。」
 急に……?
「早く来ないとゆきとやらを食っちまうぞ!オレの方が優位にあるんだからな!これくらいのことでオレが不利になることなんてないんだし。それに……」
「それに……?」
 続きが気になる。
「早く……会いたいしね……クレイル……とあんたに。」
 やっぱ目的はクレイル……キャロ……。
「んじゃ、後でな。」
と言うと、“月の陰”の幻は消えてしまった。
「……大丈夫か?キャロ……」
 キャロは、と言うと、汗びっしょりで、息を切らしていた。
「……はぁ……はぁ……っ……だ……いじょぶっ……」
 キャロと肩を組み、キャロが歩くのを手伝いながら階段を上った。
 二階に着いた途端、キャロがその場に座り込んだ。
「ほ、本当に大丈夫か?キャロッ!」
 さすがにこんなに疲れてしまうと歩くだけでも大変なようだ。
「……サックス……吹いて……くれる……?」
 突然この場に似合わない発言をされたので、オレは目を丸くした。