「張り切りすぎだ、シリア。」
「ご、ごめんよぅっ……」
 結界の跡を思い切り踏み出したシリアは、その力を存分に被ってしまったわけだ。
 あの時の音は凄まじかった。
「式神って意外とタフなんだねっ☆あーんな物凄い魔力を一心に受けたのに、フィラの回復魔法ですーぐ治っちゃうなんてね~♪」
「まー、一応それなりに精神を鍛えてるからね……それに、」
と、シリアがこちらを見る。
 ん?
「フィラの魔力が、成長してるからってのも、あるし……」
「褒めても何にも出ないよ。もう痺れとか、痛みは消えた?」
 そんなつもりじゃなくて本当のことだし、もう大丈夫だって、と言いながらも、まだぴりぴりしているようだ。
 シリアの周りを時々小さな光が舞う。結界に使われていた魔力と同質のものだ。
「シリア――……その光を吸収して自分の魔力に変える、とか出来ない?」
 何気なく言ってみる。
「吸気人なら出来るんじゃないの?ボクは元魔法人の式神だから、そんな器用なことは出来ないよ。ただその分、魔法のスペシャリストだけどね。」
「それならどうして結界のこと気にせず行ったんだよ?」
「そ……それは……ぁ……」
 気まずそうに目を泳がすシリア。
「まあまあ☆フィラもそんなに式神くんを苛めてないでさ!何とかなったんだし、とりあえず結界をどうするか考えなきゃね♪」
「じゃあ……」と、シリアを見やる。「……結界、どうやれば抜けられるか、分かる?」
 するとハッとした表情を浮かべたシリア。
 何か閃いたらしい。
「穴を探せばいいんだよ!」
「あ。」
 ルーディが抜け出た穴。
「たぶん、ルーディみたいなちっこいのしか抜けられない穴が何処かにあるんだ、きっと。吸血人って確か蝙蝠になれたよね?蝙蝠サイズならそんな小さい穴でも抜けられるんじゃない?」
 しかしふと疑問が浮かぶ。
「そんな小さな穴に、一体どうやって私たちは通ればいい?」
「あ。」
 今度はシリアが言う側だった。
 私は自分の身体を変化させる魔法が使えないし(そもそもリムージュ法で禁止されている)、アルマは風の魔法しか使えない。
「……うーん、これは法律に微妙に触れそうで触れないと思う案なんだけど……」
 シリアが顔を渋らせて言う。
「穴が小さいなら、大きくすればいいんじゃない?」
「え!?」
 本気で言ってるの?という目でシリアをまじまじと見る私たち。
「もしかしたら見張りが甘いのかもね。穴が小さいから気付きにくいのかもしれないけど。だったらさ、ルーディが入れるくらいなら、少し大きくすればボクら、余裕で入れちゃうんじゃない?」
「そんなことはないぞ?」
 いつの間に現れたのか、結界に厳つい(いかつい)男が映っていた。

「ど……どちら様……で……?」
 怯えつつもシリアが問う。
「俺?俺はこの結界の番人だ。お前らに名乗るようなモンじゃない。さっきだって、お前らが勝手に結界入ろうとしやがるから、急いで穴を封じたのさ。」
 がっしりとした顔は、怒っているようにしか見えない。
 それが余計私たちを恐怖に陥れる。
「じゃあ、どうしてルーディ……小さい悪魔が結界の外に現れるんです?」
「悪魔?悪魔くらい結界の外に住んでるやつもいるだろうが。」
 はぁ?と問い詰めたくなったが、そんなことをしたら何をされるか分からない。
 あんな強力な結界を瞬時に張れる男だ。
 下手したら殺されかねない。
「あの……この中に、私たちの友人がさらわれているんです。」
 勇気を振り絞り、言葉を選んで、言う。
「次の満月に、生け贄にされてしまうんです。助けたいんです。どうしても結界の中に入らなきゃいけないんです。」
 これは、賭けだ。
 この男が、私を信じるか否か、の。
「そうなんですっ!クラウドくんが大変なんです!」
 アルマも応じる。
「フン、そんなの知ったこっちゃない。」
 ふと、疑惑が浮かぶ。
 もしコイツが、吸血人に操られていたら?
 確か吸血人は、人の血を吸うこともあるし、自分の血を与えることもある、と書いてあった。
 自分の血を与えた人の自由を完全に奪い、操る。
 そんなこともできる、と。
「スペクト様のためなら!」
「やっぱりあんた、スペクトに操られてるね!」
 睨み付ける。
 状況が飲み込めないアルマとシリア。
「え、どういうこと?」
「吸血人は他人を簡単に操れるんだ、自らの血を相手に与えることでね。」
 その視線だけで私の動きを止めたのだ。
 それくらい、スペクトたちに出来て当然だろう。
「それよりも、」映像を見やり、「あんた、なかなかの臆病者だね。自分の姿をこっちに見せないだなんて。自分は賢いんだ、って?ハッ、笑わせる。私らにやられるのが怖いから、面と向かって戦うことが出来ないんだろう?」
 挑発する。
「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、お前らなぞ、こいつらで十分なんだよ。」
 ヒュッ!
 辺りを囲む影。
 5つ……?
「やれ、俺の手下。そいつらを殺せ。」
 こ……!?
 殺す、だと?
「ふざけるな!」
 周囲に現れた黒い影を、私たち3人で狙っていく。
 しかし相手は素早い。
 なかなか攻撃が当たらない。
「……くぅ……」
 裏技を使うしかないかも……。
 アルマやシリアがなんとかその素早さに追いついて攻撃を与えられるようだが、私にはその素早さはない。
 その上に周囲が、木々に覆われているせいか暗い。
 暗い……?
 そうだ!
「火よ我らを照らせ、我らを真の道へと導くために。火光!」
 火が私の指先に燃え、その光が辺り一面を照らし出す。
 すると、予想通り5つの影は消えていった。
「……よく、見破ったな……」
「さっすがフィラだね☆」
「この前アルマ言ってたよ、『闇の一族は強い光がニガテなんだ』って」
 そうだったっけ♪と、にこやかな笑顔で頭を掻くアルマ。
「ふふ、じゃあ、これはどうかな?」
 辺り一面を光が照らし出す中、現れた、敵は……。