気になるあの人に
1.転校生
「なつー。おっはよ。」
と、なつに向かって言う私。
「遅いよ、しい姉。早く御飯食べないと遅刻するよ。」
「わかってるって。」
テーブルの近くの壁にかかっている時計を見ると、針はすでに7時5分を示していた。
どんなに急いでも、私の通っている学校までは少なくとも45分はかかる。
御飯を食べたり歯を磨いたりする時間も入れると、学校に着くまでの時間はだいたい1時間くらいになってしまう。
ばくばくばくばく。
もう、「ぱくぱく」どころじゃない。
「ばくばく」よ。
わたしの名前は松野しいな。
都立北科里(きたしなり)高校1年生。
髪型…というと、ママに無理矢理ショートカットにされて2年くらい経ってるから、おかっぱ頭を肩まで伸ばした感じになっている。
性格は…友達には「気が強ーい」と言われる。
何でだろう?
「なつ」っていうのはわたしの妹。
フルネームは松野なつめ。
髪型は普通のショートヘア。
見た目……行動とか、中身……性格が少年っぽい。
でも、姉のわたしから見ても可愛い。
少し生意気なのが欠点だけど。
それさえなければ…ねぇ?
ピンポーン。
チャイムの音が鳴り響く。
「どちら様ですか。」
と、椎名(しいな)の声。
「松野ですっ。」
大声で叫ぶわたし。
「うわっ!でけー声だな、相変わらず。朝っぱらからんな声出すんじゃねぇよ。」
驚いた調子で椎名が喋る。
「あんたの声よりも、拓美さんの美しーい声が聞きたいの!拓美さん、まだいらっしゃる?」
「あ、いるけど?姉ーちゃーん。」
「あ、はいはい。今行くー。」
と、拓美さんの返事が返ってくる。
インターホン(家のチャイムのこと…?)からだけではなく、玄関からもそのやりとりが聞こえてくる。
声デカイなぁ、2人とも……。
椎名――は、フルネーム・椎名高也(たかや)。
わたしと同い年で、肩幅が普通の男子より狭いことを気にしている。
そして、女のわたしから見ても結構可愛い。
憎たらしいほど。
『可愛さ余ってにくさ百倍』っていうのはまさにこのことだと痛感しちゃうわ。
それに、わたしと名前の一部が同じで、幼馴染(おさななじみ)(近所に住んでるの)。
拓美さん――のフルネームは椎名拓美。
わたしより2歳年上で、高校3年生。
すっごく優しくて、素敵な人で。
髪は腰に届くほど長くて。
お洒落好きで。
だから、お化粧も上手。
そんな拓美さんにも短所が一点だけある。
わたしを『しいなちゃん』と呼ぶことだ。
わたしは名前の方を呼ばれるのがすっごく嫌い。
でも、こんな素敵な方からであれば、少しくらい呼ばれても嫌いにはなれないわ。
ちなみにこの素敵なお方は、なんとあの憎たらしい椎名のお姉様。
あんなヤツの、ではなく、わたしのお姉さんだったらどんなに良かったことか……。
「おはようっ。」
と、拓美さん。
「おはよー。」
と、わたし。
「いってきまーす。」
と、拓美さんが先程の声に負けず劣らずデカイ声で言った。
「ごめんね、しいなちゃん。ちょっと化粧に時間かかっちゃって。」
「別にいーですよ。気にしないで下さい♪」