未来から来た流れ星
2.セイ、空を飛ぶ
「セイって体重何キロ?」
ボクは訊いてみた。
一応知りたかったからだ。
「え…と、スジスズズズシジでは90キロだから…。ヨンジュウ…ゴキロ。」
「へぇ。だいたいボクと同じなんだ。」
改めて感心してしまう。
こんなことが同じでも、嬉しくもなんともないけど。
「ところで、何でさっき、ボク、セイがついてきちゃってること、忘れたんだろ。」
ボクはさっきからそのことを気にしていた。
「あっ、ああ、あの『鈍感になれ。後は気にするな』っていうの?」
「えっ。あっ、うんうん、そうそう。」
一瞬、何のことだかわからなかったけど、たぶん「デゥパルディハリ」のことなのだということがわかった。
「ボクの得意な一種の催眠術。この場合は鈍感プラス記憶喪失させるやつだよって、わかるよね。」
「なんでそんな必要があったわけ?」
「キミについていってみたかったから。」
短い沈黙。
「他にも人はいるのに…。何でボクを?」
「なんとなく。」
また沈黙。
何か言わなくちゃ。
んーとんーと。
「ああああのっ、うちのうちの家っ庭ではっ、セセイはっ。」
「水もってこようか?」
セイがそう言ってくれた。
けどボクは、
「いいいい。で、セイはうちの家族にとってどんなものなの?」
やっと言えた。
「イトコ。」
「えっ!?」
セイに訊き返した。
「キミのイトコ。」
「あっ。ボクの名前、美朋。」
自分の名前を言うの、すっかり忘れてた。
「そう。美朋のイトコ。」
じーん。
胸に音楽が響き渡ったみたいだ。
うれしい。
ほんのりあまい、蜂蜜のような感じ。
甘すぎるか。
「あ、言うの忘れてたけど…。この時代の言葉について教えて。」
「えっ。スジスズズズ…の時代のと同じじゃないの!?」
ボクは驚いた。
だって今まで未来でも言葉使いは同じだと思ってたんだから。
「少し違うとダトイ。」
あれ?
セイの言ってる意味がわからなくなってきた。
「あっ。そうだ。辞書持ってくる。」
辞書辞書、あ、あった。
「これ、読んでみて。」
通じるわけない、と思いつつ、セイに辞書を渡しながら言った。
読んでくれるかな?
「姉ちゃん、早く飯作れ!」
と朋雷の声。
「あっ。はいはい。じゃ、御飯作ってくる。後で来て。」
「うん。」
とセイ。
腕の時計を見ると、もう7時5分。
御飯のこと、すっかり忘れてた。
どだだだだだっ。
「朋雷、お待たせ。」
朋雷はテレビに熱中している。
そうだ、今日は日曜日だったっ。
朋雷――上杉朋雷は、ボクより5歳も年下の、小学5年生。
年下のくせに、やたらと生意気。
さっきみたいに、ボクのことを、たまに『アホウ姉ちゃん』という。
くそっ、今度言ったら二度と言えないようにしてやるっ。
冷蔵庫の中をのぞいてみる。
にんじん、玉ねぎ、じゃがいも。
これは、野菜室に入っていたもの。
これらで連想される物といえば。
カレーライスか肉じゃがくらいだ。
冷凍室には。
ない。
肉がない。
しょうがない。
肉なしのカレーライスにしておこう。
カレー粉もあることだし。
「御飯できたよー。」
ボクは大声で言った。
すると、
「はーい。」
という返事と共に、朋雷が来た。
辞書を読み終えたらしい、セイも来た。
さすが超能力者、とボクは思った。
あんな分厚い辞書を。
40分足らずで。
ボクはエプロンをはずし、席についた。
「いただきます。」
と大声で言った。
「ね、セイ兄キ。うまかったか?姉ちゃんのカレー。」
セイが食べ終えた後、朋雷が言った。
「ん。おいしかった。」
辞書は最後まで読んだらしい。
「へぇ。にんじんって、カレーライスにするとこんなに柔らかくなるんだ。」
と、余計なことまでセイは言った。
「当たり前じゃんか。」
と朋雷がつぶやく。
「セイ、食器片付けたら、上に来てね。」
ボクはセイにそう言った。
「何?ボクに用?」
セイはボクに訊いてきた。
飴玉のようなものを飲まなくても、日本語はしゃべれるようになったんだな。
発音はちょっと違うけど。
「あのさ、お願いだから、『カレーライスにするとにんじんが柔らかくなるんだー。おもしろーい』みたいなこと、言わないでくれる?バカだと思われちゃうからさ。」
すると、
「大丈夫。」
とまだ不慣れな発音でセイが言った。
「一応、ボクは外国から来たことになってる。…外国って言っても、ドイツってとこなんだけど。」
また、セイが一文字一文字、ゆっくりと下手に言った(わざとじゃないんだろうけど)。
ボクはこぶしを握って言った。
「カレーは世界共通だよっ!」
大声で言ったから、
「姉ちゃんうるさいっ!」
と、朋雷に言われてしまった。
「そんなことはおいといて。」
ボクはカレーの話題をそらした。
「セイって重力が重い星にいたから、空跳べるかな?と思って…。それが、ホントの呼んだ理由。」
「じゃ、試しにやってみようかな。」
そう言うとセイは。
ベランダから空に向かって跳んだ。
ジャンプはジャンプなんだけど。
そのすごいことといったら。
ボクが女っぽくなるより。
非常識だった。
ボクはまだ跳んでいるセイに向かって、
「セイ、スジスズズズシジで、あー、もう、赤星でいい?赤星で高飛び何cm?」
と言った。
するとセイが、
「え…。と……。ボクの身長くらいだったから…150cm。」
と言った。
ボク、目がお皿になった。