1日目~悪夢の夜~ -その1
今日はあのお方――ナッツ・クラウドの誕生日。
彼の家で、パーティが行われるのだ。
そして私は、そのパーティに呼ばれたの。
なんてラッキーなんだろ、私って。
私――フィラ・ティモールは、14歳。
だけど、私の一族――ティモール族は、成人の儀式として“たまご”を守り、使いこなせるようになるまで、一人暮しをしなければならないので、家族と離れて生活している。
儀式なんかやだって抵抗したけど、
「儀式を行わないと成人の証をもらえないぞ。」
と言われたので、仕方なく儀式を行うことにしたの。
成人の証――額に自分の石を持ちたいから。
それだけの理由なんだけどね。
で、その見届け役こと保護者役に式神のシリア・パテオ・ローランがいるわけ。
シリアとは長い付き合いなんだ。
私が5歳になったときに彼を呼び出したの。
なぜかティモール族は妖怪に襲われやすいらしくて、そんでそれらから身を守るために式神を呼び出す。
式神っていっても、私にとっては他の人と大して変わらないように思えるけどね。
よし、服の準備はできた。
「フィラ―――!!」
「うわっ!?」
いきなりシリアが現れたので、私は驚きの声を上げてしまった。
「あ、ごめん!驚いた?」
「驚くに決まってるよ!で、何の用?」
「ほら、フィラ、かばん忘れちゃだめだよぉ。この中に大事なものいっぱい入ってるんだから。」
あ、忘れてた!
一番重要なものを…。
「財布、プレゼント、“たまご”、招待状…OK!ありがとう、シリア。」
「どいたしまして。くれぐれも“たまご”をとられないように、気をつけるんだよ。」
「わかってるよ。」
ぶっきらぼうにシリアに向かって私は言い、家を出て、ドアの鍵を閉めた。
周りの景色がいつもと違う風に思える。
いつもと同じように家はあり、森は緑色から赤や黄に染まろうとしているのに。
これはやはり、今日が特別な日だからかな。
「フィラは今日は水色だね。」
「え、何が?」
「オーラが…嬉しそう。」
シリアにはオーラの色を見る力があるらしい。
…嬉しさがオーラにも出てるってことかな。
「そっかぁ…」
オーラの色が変わるから、周りの風景もいつもと違って感じてしまうのかな。
私の住んでいる町――“リムージュ”の近くに、すっかり橙色に染まってしまった“リムロード”という山がある。
そこに、私の友達の妖精――アルマ・パムーが住んでいる家がある。
今、私たちはそこに向かっている。
「…そんなにいいのか…」
「ん?何が?」
突然シリアが言ったので驚きながらも、私は彼にそう問うた。
「んー…何でもないっ!」
「じらすな!ちゃんと言ってよ。」
「…クラウド、が!」
クラウド?
「何故急にクラウドを出す?」
「だーかーらっ、フィラがそんなに喜んでるからっ!」
周りの木々が笑うように葉を踊らせた。
今日は風が強い。
「それって嫉妬?」
くす、といやみっぽく笑ってみる。
「そーじゃなくってっ!」
シリアが怒り出す。
可愛いなぁ。
思わず顔をほころばせてしまう。
するとシリアは突然鋭い表情になった。
「危ない!」
「え?」
私はシリアに体を伏せさせられた。
そして頭の真上で
「バリ…」
という音がした。
「ち、逃げられた。」
「な、何をするの、いきなり…」
すると、今まで何かが逃げていった方向を見ていたシリアは、くるりと顔を私に向けた。
「コウモリがフィラ目掛けて飛んできたんだよ。」
え?
こうもり?
「あのコウモリ、妖怪だったよな…吸血鬼とか…そこら辺の…」
「え?なんで?」
シリアの目が鋭くなった。
「フィラはただでさえ妖怪に狙われやすい体質なのに、“たまご”なんてもってたら…なおさらだ。“たまご”にはありあまるほどの魔力があるからな。」
「そっか…あ、もう少しでアルマの家に着くよ。」
とりあえず気を取りなおす。
確かに私も「妖怪に狙われやすい」のはイヤだよ。
でも、そうじゃなかったら式神を呼ばなかっただろうし、シリアに会うこともなかったと思う。
だから、ちょっとだけこの体質に感謝している。