運命の時計/第1話

2009-06-27 (土) 01:39:47 (440d)

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〜1.悪魔の呼び声〜

 

「この詩…誰が書いたの?」

 ゆきがわら半紙の裏に書いてあったそれを見て言った。

「オレだよ、オレ。」

 ゆきに照れた顔を見せないようにしてオレは言った。

「えーっ!?うっそぉ!文才の無いかけるがこんなこと書くなんて信じられない!」

 そこらに散らばった楽譜を整えながらも、オレにキツイ言葉を投げかけた。

「…信じる信じないはゆきの自由だから…別に無理して信じんでもいいけど。」

 My楽器(「キャロライナ」という名前をつけてみたりしている(苦笑))の汚れを丁寧に落としながらもオレは呟いた。

 こいつはオレが中2のころ、親に買ってもらったSaxだ。

 もうこいつと出会って5年目になる。

 いつもお世話になっている訳だから、ときどきこいつの日頃の汚れを拭き取ってやるのだ。

 

 ここは音楽室。

 吹奏楽部の部室として放課後に使われる場所だ。

 オレは吹奏楽部の部長をやっていて、Saxを吹いている。

 そんで、今オレのとなりで楽譜を整えているのが「楽譜係」の前崎ゆきな。

 クラリネットパートのリーダーもつとめている。

 

「かけるー楽譜整え終わったよー。ねぇ、早く楽器片付けて帰ろうよぉ。」

「わーったよ。片付けるから急かすな。」

 

 そう、オレの名前は「井村 翔(かける)」という。

 ありがちな名前で、オレは好まんが。

 漢字がなかなか面倒なのでよく名前を平仮名で書く。

 その方が、親しみ易さがあるし。

 

 サックスのマウスピースを取り、唾を抜き取り、ネックを取り外してまた唾を抜き取る。

 サックスは曲がっている分、クラリネットやフルートに比べて片付けや唾抜きに時間がかかる。

 アドルフ・サックスは何を考えてこんなにうねうねした楽器を作ったのか。

 …まぁサックスにもそれなりに利点はあるが。

 その利点に惹かれて5年以上もサックスを続けられたのだから。

 

「もうオレら、高3なんだよな。」

 ぼそっと呟いてみるオレ。

「な、なーにしみじみしちゃってるのよ。今さら高3を実感したって遅すぎるんだから。さ、早く帰ろ。」

 ゆきのつっこみ。

「わかったよ。帰るぞ。」

 

 学校の外は、もう真っ暗。

 黒い空には星々が煌(きらめ)いていて、それらと同じように月も浮かんでいる。

 

 オレはまだ高3になったばっかりで、高2から予備校に通い始めたせいか、受験生だという実感があまりない。

 だからさっき、あんなことを呟いてみたりしたんだ。

「こうして夜遅くまで残って一緒に帰るのも今年の9月くらいまでなのよね。」

「そうだな。」

 オレとゆきの志望校は別々で、受かるにしろ受からないにしろ、バラバラになってしまう。

「ゆきがいなくなると…さびしくなるな。」

「よっ…よくそんな恥ずかしいこと平気で言えるわね!」

 ゆきの怒鳴る声。

「そうかな。」

と、ゆきに目を合わせてみる。

 バコッ

「いたっ!!」

「いー加減にからかうのやめてよ!もう高3なんだよ!ったく。」

 ゆきに鞄で殴られた…イタイ。

 

 一緒に帰ったりしているが、オレとゆきは恋人仲、というわけではない。

 腐れ縁、ってやつだ。

 家が近いから、よく小さい頃から一緒に遊んでいた。

 そして小学校、中学校、高等学校と、ずっと同じクラスで、嫌と言うほどお互いの顔を見ている。

 

 今は横断歩道の前。

 信号待ちだ。

「あ、そうだ…明日…」

 ゆきが顔をこちらに向ける。

「なんだ?」

「明日さ…」

「あ、信号が青になった。渡ろうぜ。」

 信号を指差す。

「う…うん、そだね。」

 向こうに向かって歩き出す。

「で、明日が何だって?」

 ゆきの言い掛けた言葉の続きを問うてみる。

「そうそう、明日、せっかくの休みだから、どっか行かない?ちょっと言いたいこともあるし…」

「言いたいことって?」

とオレが訊くと、ゆきは前に駆け出し、こちらを向き、

「ひみつッ♪」

と言い、姿を消した。

「ゆきッ!?」

 

 あっという間だった。

 丁度右折してきたトラックが、ゆきに気が付かなかったらしく、彼女を轢(ひ)いてしまったのだった。

 でも、トラックに当たった瞬間、ゆきの姿は消えたのだ。

「オマエノカノジョヲサラッタゾ。」

 一瞬、そんな声が聞こえた気がした。

 オレの彼女じゃないのに。

 なんで泣きたくなるのだろう。

 

 

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